「ハルモニア共和国」で「お気持ち表明罪」が施行:社会の混乱と問題点を検証
ハルモニア共和国で昨年導入された「お気持ち表明罪」が、国民の言論と感情表現に深刻な影響を及ぼしている。この法律は、「あなたの言動に傷つきました」という訴えに対し、「いや、私も今の言葉に傷ついた」と反論する「傷つきバトル」が社会問題化したことを受け、感情の衝突を法的に裁定する目的で制定された。しかし、アンチ朝田理論(感情の主観性を否定し、客観的基準で問題を解決する考え方)に照らすと、この法律は多くの問題を孕んでいる。
「お気持ち表明罪」とは?
「お気持ち表明罪」は、公共の場で「傷ついた」と表明し、相手がそれに反論した場合、裁判所が「どちらがより傷ついたか」を判定する法律だ。判定基準には「感情被害スコア(EIS)」が用いられ、言葉の強度、状況、個人の過去のトラウマ歴などを数値化して比較する。勝訴者は「被害者証明書」を取得し、敗訴者は罰金や社会奉仕活動を課される。極端なケースでは、発言禁止令が発令されることもある。
この法律の背景には、ハルモニア社会で急増した「傷つきバトル」がある。例えば、カフェでの会話で「その服、ダサいね」と言われた客が「傷ついた」と訴え、相手が「その言い方に傷ついた」と反論。両者が互いの「傷つき」をエスカレートさせ、店員や周囲を巻き込んだ大騒動に発展する事例が頻発した。政府はこれを「社会の分断を防ぐための最終手段」と位置づけ、2024年に法案を可決した。
感情の数値化の不可能性
EISは言葉や状況を数値化するが、感情の深さや背景は個人差が大きく、客観的基準の構築はほぼ不可能だ。例えば、「バカ」と言われた場合、過去にいじめを受けた人は深刻なトラウマを想起する一方、親しい友人同士では軽い冗談として受け流される。EISはこうした文脈を無視し、画一的なスコアで裁定するため、不公平な判決が多発している。ある裁判では、「遅刻した」と指摘された会社員が「人格否定された」と訴え、逆に上司が「部下の反抗的態度に傷ついた」と反訴。EIS計算の結果、上司が勝訴したが、部下は「納得できない」と暴動を起こし、職場が機能停止に陥った。
言論の萎縮と監視社会の助長
「傷ついた」と訴えられるリスクを恐れ、国民は日常会話で過度に慎重になっている。首都ハルモナードでは、街頭に「EIS監視カメラ」が設置され、会話内容をリアルタイムで分析。スコアが閾値を超えると自動的に訴訟が開始されるケースも報告されている。これにより、友人同士の軽い冗談や恋人同士の口論までが法廷に持ち込まれ、信頼関係が崩壊。ある大学生は「友達と話すのが怖い。黙っているのが一番安全」と語る。
感情のエスカレーションを助長
皮肉なことに、この法律は「傷つきバトル」を抑えるどころか助長している。訴訟を有利に進めるため、原告側が意図的に「傷ついた」アピールを誇張する傾向が顕著だ。例えば、ある主婦は近隣住民の「ゴミ出しが遅い」という発言に対し、「私の存在を否定された」と涙ながらに訴え、EISスコアを吊り上げて勝訴。しかし、後に彼女が「訴訟で勝つための演技だった」とSNSで自慢していたことが発覚し、さらなる対立を招いた。
司法の過負荷と経済的損失
裁判所の訴訟件数は昨年比で300%増加し、司法システムはパンク状態だ。EIS専門家の育成や監視システムの維持にも巨額の予算が投じられ、国民の税負担が増大。一方で、企業は社員の訴訟リスクを恐れ、対面会議を廃止しリモートワークを強制するなど、経済活動にも悪影響が出ている。
市民の声と今後の展望
市民の間では不満が高まっている。ハルモナード在住の教師、ミラ・カザン(仮名)は「この法律は、誰もが被害者であり加害者になり得る社会を作った。互いを理解する対話の機会が奪われている」と批判。一方、法務省の報道官は「EISのアルゴリズム改善を進め、公平性を高める」と主張するが、抜本的な解決策は見えない。
解決策は感情の衝突を法で裁くのではなく、対話と相互理解を促進する教育やコミュニティ作りにあるはずだ。しかし、現状のハルモニアでは、法律が社会の分断を深める皮肉な結果を招いている。「お気持ち表明罪」は、感情を尊重するあまり、理性と自由を犠牲にする危険な実験と言えるだろう。
(ハルモニア通信社 記者:アキラ・ノジマ)