ソーシャルメディアや日常会話で、「アイツ、たまにはまともなこと言うな」というフレーズがよく聞かれる。この「まとも」の基準が、発言者と同意見であることに基づいているケースが多いことが、心理学者らの注目を集めている。株式会社ソーシャルインサイト（仮称）の調査によると、約65％の人が、自分と同じ意見を「合理的」または「まとも」と評価する傾向があるという。

例えば、普段は対立する政治的意見を持つ相手が、自分の考えに近い発言をした際、「まとも」と感じる人が多い。しかし、この「まともさ」は客観的な基準ではなく、発言者の主観に依存している。心理学者の中村彩花氏（仮称）は「自分を『まとも』と信じることで、自己肯定感を保とうとする心理が働く。自分の意見と一致することが、まともさの基準になりやすい」と分析する。

なぜ人は自分の意見を「まとも」の基準に置くのか？ 中村氏は「自己肯定感を維持するために、自分の価値観を基準とするのは自然な心理」と説明する。しかし、この傾向が強い場合、現状がうまくいっていないときでも、自分の「まともさ」に固執し、異なる意見を受け入れにくい状態に陥る可能性がある。

また、語彙力の不足もこの現象に影響を与えている可能性がある。例えば、「当たり前」という言葉を、実際には当たり前でない事柄にも使う人がいる。調査では、20代の30％が「自分の知っていることは全て当たり前」と考える傾向があり、相手の視点に立って考えるのが難しいケースも見られた。これは、心理学で「誤信念課題」に失敗する幼児の反応に似ており、相手の立場を想像する能力の欠如が背景にあるとされる。

子どもが「絶対」や「全部」といった極端な言葉を好むように、大人にも似た傾向が見られることがある。特に、不確実性を嫌う人や数字・確率に基づかない会話をする人は、こうした言葉に頼りがちだ。社会学者の佐藤健太氏（仮称）は「極端な言葉の使用は、複雑な現実を単純化しようとする試み。幼児性とまでは言えないが、思考の柔軟性が欠けている場合がある」と指摘する。

ソーシャルインサイトの調査でも、約40％の人が「自分の意見に反する相手を非難する際、極端な表現を使う」と回答。特に政治や社会問題に関する議論では、相手を「まともでない」と切り捨てる傾向が顕著だった。

興味深いのは、「まとも」と評価した相手が、自分に不都合な意見を述べた途端に「失望した」と感じるケースだ。例えば、自分の非を指摘された場合、相手の意見が正しくても、その人を「まともでない」と見なす人が多い。佐藤氏は「これは認知バイアスの一種。自分の信念を守るため、相手の価値を下げてしまう」と解説する。

この現象は、ソーシャルメディア上での対立や分断を助長する要因ともなっている。調査によると、約55％の人が「意見の不一致を理由に、相手への信頼を失った経験がある」と回答。自分の「まともさ」を基準に他人を評価する傾向が、対話を難しくしている可能性がある。

専門家は、自分の意見を「まとも」の基準とするバイアスを克服するため、相手の立場や背景を考慮する姿勢が重要だと強調する。中村氏は「自分の価値観を一旦脇に置き、相手の発言を客観的に評価する習慣を身につけることで、建設的な対話が可能になる」と提案。社会の分断を減らし、より多様な意見を受け入れるためには、「まとも」の基準を自分から切り離す努力が必要だ。

注：本記事はフィクションであり、実在の人物・団体・国家とは一切関係ありません。