エテルニア共和国議会で、物議を醸す「長生き税」法案が提出され、国民の間で激しい議論が巻き起こっている。この法案は、高齢者が受給する年金の総額が支払った保険料を大幅に上回ることや、医療費の保険適用分の大半を現役世代が負担している現状を背景に、「長生きは贅沢である」との論調から生まれた。法案は、高齢者の生活保障と現役世代の負担軽減のバランスをめぐり、国民を二分する対立を浮き彫りにしている。

「長生き税」法案は、70歳以上の高齢者が一定の所得水準を超える場合、受給する年金や医療費の一部に追加税を課すことを提案するものだ。提案者である与党・進歩改革党の議員、カーラ・トーレス氏は、「現役世代が過重な負担を強いられている。長寿は喜ばしいが、そのコストは社会全体で公平に分担すべきだ」と主張。政府の試算によると、高齢者1人当たりの年金受給額は、支払った保険料の約2.5倍に達し、医療費の保険適用分の約70％は現役世代の税金と保険料で賄われている。

エテルニアでは、平均寿命が過去20年で10年近く延び、85歳を超える高齢者が人口の15％を占めるようになった。一方で、出生率の低下により現役世代の人口は減少傾向にあり、社会保障費の負担が若年層に集中している。この構造的な不均衡が、「長生き税」の議論を後押しした。

法案に対し、高齢者団体は強い反発を示している。全国高齢者連盟の代表、マルコ・リベラ氏は、「長生きは個人の努力と社会の進歩の結果だ。それを『贅沢』と呼び、税で罰するのは理不尽だ」と訴える。多くの高齢者は、長年にわたり保険料を納め、国の経済成長を支えてきたと主張し、追加税は「世代間の約束の裏切り」だと批判する。

首都エテルノスでは、数百人の高齢者が議会前で抗議デモを行い、「長生きは権利、税は差別」と書かれたプラカードを掲げた。80歳の元教師、アナ・ゴンサレスさんは、「年金でようやく生活できるだけなのに、さらに税金を払えというのか。こんな不公平はない」と憤る。

一方、現役世代の一部は法案を支持する。30代の会社員、ヒロシ・タナカさんは、「毎月の保険料が手取りの3割近くを占める。これで高齢者の医療費や年金を支えるのは限界だ」と語る。ソーシャルメディアでは、「長生き税は世代間の公平を取り戻す第一歩」「高齢者が長寿を享受するなら、そのコストを一部負担すべき」といった意見が目立つ。

特に、若年層の間で「世代間不平等」を訴える声が高まっている。経済研究所の報告によると、現在の30代以下の世代は、退職時の年金受給額が現行の高齢者より20～30％少ないと予測されている。この格差が、若者の不満を増幅させ、法案への支持につながっている。

社会学者リアム・チェン氏は、「長生き税をめぐる議論は、単なる税制の問題ではなく、世代間の価値観の衝突を反映している」と指摘する。高齢者は「長寿は社会保障の成果」と捉える一方、若年層は「負担の不均衡」を問題視する。この対立は、経済格差や社会保障の持続可能性に対する不安が背景にあるとチェン氏は分析する。

政府は、法案の修正案として、所得上限の引き上げや低所得高齢者への免税措置を検討しているが、議会での可決は不透明だ。野党・共生連合は、「長生き税は高齢者を分断し、社会の連帯を損なう」と反対を表明。世論調査では、国民の48％が法案に賛成、45％が反対と、意見は拮抗している。

エテルニア共和国は今、世代間の公平と社会保障の未来をめぐる岐路に立っている。「長生き税」が可決されれば、類似の政策が他国にも波及する可能性があるが、反対派の抵抗が強まれば、社会保障改革全体が停滞する恐れもある。この議論の行方は、エテルニアの未来を大きく左右するだろう。

※本記事はフィクションであり、事実に基づくものではありません