海嘯(かいしょう)

記入日:2004/01/15

「海嘯(田中芳樹 著)」を読んだ。平たく言えば、南宋滅亡の物語である。著者の作品は中学時代に友人から借りて幾つか読んだ記憶がある(設定の矛盾も話し合った)。中学生当時、著者の文面はどことなく堅苦しく思えていたが、今はそれほど感じない。まぁ、中国が舞台だけに「漢字」で困ることもあるが。

読んでまず思ったのは主役が誰なのか、である。最初に出てきたのは賈似道だが間違っても主役ではない。彼はすぐに死ぬ。それも姦臣として(それだけのことをしている)。

読んでいくと賈似道が世間知らずの孺子と罵っていた陸秀夫、陳宜中、文天祥の名をよく見るようになる。その中でも文天祥をよく見るのだが、後記には「彼ひとりを突出させるような記述は避けるよう努めた」とある。「ああ、そうですか。田中先生」とひとり妙な納得をして本を閉じた。

文天祥にしてもだが、中学時代に読んだ著者の架空の世界を舞台にした物語に出てくる人物のように、華々しい活躍というものがない。皆、どこかで失敗し、どこでは成功している。それが歴史というものなのかもしれない。作品中では絶大な力を持つモンゴルも、この後滅びるのである。

そうなると、陳宜中のように頭がいいとは言われながらも、決断が出来ずに後手に回り、敵前逃亡を繰り返すような男の方にリアリティを感じてしまう。歴史上の人物とはいえ、誇りのために死んでいく人は私にとって現実味がない。それが読後の素直な感想だ。

曹操 魏の曹一族

「曹操 魏の曹一族(著:陳舜臣)」を読んだ。正直、もっと戦術レベルまで掘り下げた戦いの描写が欲しかった。別に残酷なシーンを求めているのではない。乱世の英雄たちを知る上で用兵術は欠かせないと思うからだ。

そうは言っても、曹操という人物を知るにはよかった気もする(私の中の曹操は八割方マンガ「三国志」の曹操だった)。今回これを読んだことで、彼のイメージが前よりもハッキリしてきたような気がする。絵に例えて言えば、読む前は平面的だった曹操の顔に影が付く感じだ。

日本の武将で言うと誰にイメージが近いかと言えば織田信長である。あくまでも、この本を読んだイメージからすればであるが。ただ、織田信長よりもある意味人間くさく、もろいところがあるような気がする。まぁ、織田信長の方も、また色々読んでいる内にイメージが変わるのだろうが。

読後にいい役回りだなと思ったのが紅珠である。ことの経緯は面倒なので書かないが、もはや生きてはいない人と思われている彼女が、自らを亡霊と言いながらも、粋な言葉で曹操に苦言を呈する場面がわりと好きだった。

 

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