黒竜潭異聞

記入日:2004/02/01

「黒竜潭異聞 著:田中芳樹」を読んだ。平たく言うと中国ものの短編集である。何分、短編なので読み応えがないが、歴史物というよりは昔話を聞くような感覚で読めた。実際、教訓めいた幻想的な話もある。

私が気に入ったのは「黒道兇日の女」と「騎豹女侠」という話である。どちらにも、豹に乗った少女「聶隠」が出てくる。彼女は驚異的な身体能力に加え、薬草や毒物を扱い、豹や隼と語り合う上に、仙術を駆使するのだという。そして、「人の皮をかぶって冠を着けた奴ら」の首を取って歩く。

その特徴だけ挙げれば、「もののけ姫」のようでもあるが、その漫画的な部分も含めて気に入ってしまった。ただ単に痛快だからだ。他に印象に残っていると言えば、「匹夫の勇」という話に出てくる「簫摩訶」だ。上司に恵まれない男というのにどうも弱い。

炎の女帝

「炎の女帝 持統天皇 著:三田誠広」を読んだ。タイトルを見ての通り、持統天皇のお話である。年代的に言えば、平城京ができるちょっと前まで生きた人、といえばわかりやすいだろうか。

その持統天皇、讃良媛は所謂おてんば少女である。政変で父が大好きだった母方の祖父、石川麻呂を殺したことで、母である遠智媛が父(中大兄皇子、のちの天智天皇)への憎しみを彼女に託して死んでいくところから、「炎の女帝」への道がスタートする。

それはそれは壮絶な権力争いのお話なわけだが、彼女の資質に期待させるような序盤の描き方に比べ、実際に権力を手中におさめる過程が「他者の力」によって的で肩すかしを食らう。まぁ、当時の女性にしてみれば最大限自力で生きた人なんだろうけど。

少なくとも、戦で運命を決するような「のし上がりたい」という男の野心とは本質的にものが違う。「彼女には野心がない。あるのは執念だけ」と言えてしまう。野心と執念の違いは、のし上がる過程を見ても「執念」には爽快感がないということだ(私にとっては)。

それはそうと、どうも作者との相性が悪いらしい。登場人物の容姿を褒めすぎていて、なんだかイヤ~ンな感じだった。出てくる人ほとんどが、美しい顔立ちが前提でそれプラスα。明らかに違うのは、中臣鎌足くらいだろうか(老人を除く)。美形、美形と出てくると、美形のありがたみがなくなってくる(年くらい取れよ)。まさか、みな美形とだけ史実にあるのではあるまい?

この本では額田女王の未来予測が今後への伏線にもなっているが、これもかえって先がわかってしらけさせる。そもそも、神仏、迷信、心霊現象が嫌いな私にとって、巫女の能力だのなんだのは胡散臭くて見ていられない。

なんだか、不満が多くなってしまったが、文献にそういう記載があるのなら仕方ない。フィクション性が強いと言われる日本書紀をもとにしなければいけない時点で、この時代の物語にどこまでリアリティーを求めるのかという問題もあるが。

項羽 騅逝かず

「項羽 騅逝かず 著:塚本靑史」を読んだ。言わずとしれた古代中国、秦の始皇帝亡き後の覇権争いの物語である。この間、NHK「その時歴史が動いた」でやった「項羽と劉邦」を思い出しながら、比べながらの読書となった。

項羽と劉邦はよくよく比べられる。どちらかと言えば、項羽が悪人的な扱いをされることが多いだろう。それは生き埋めや釜ゆでをやっているところが大きいのかもしれない。しかし、劉邦だって盗賊をやっていた。まぁ、英雄なんてそんなものである。

この両者、中国では日本のような扱い方をされてはいないらしい。「その時~」では、ある中国の村では毎年「項羽と劉邦」をテーマにした劇が演じられているが、どちらが悪といった扱いはしていないという。

それを踏まえて本の感想を。まず、文章が二段になっているので私は少しイヤだったが、地図が付いていて嬉しかった。願わくば、戦力分布図も欲しかった。戦力分布図で思い出したが、歴史小説の場合、戦いにいおいて、武将達の用兵的な手腕よりも、兵士を鼓舞する方法といったところに描写の力点が置かれている気がする。まぁ、具体的な兵数や陣形なんかを詳しく書いたら、それは戦術書になって万人受けは望めないから仕方ない。だが、ちょっと何か物足りない。

「その時~」と比較して注目したいのは『関中一番乗り』を劉邦と競うところだ。「その時~」では正面から大きな敵を叩きつぶしていく項羽と、遠回りをしながらも降伏した相手に対して寛大なために、敵が次々と降伏を申し入れてきた劉邦という対比だった。この本でも似たようなものだが、項羽が正面から秦の本隊と戦うことになったのは、宋義が懐王とともに項羽を陥れようと画策していたからとなっている。どっちがどうなのか、私は歴史書を読んでいないのでわからない。

ただ、「その時~」は一応TV番組として面白い構成にするためにその辺を割愛し、ふたりのキャラクターの対比という構図を中心に展開したかったのかもしれない。他はまぁ、だいたい同じ感じではあった。「その時~」も四面楚歌の場面を項羽側から見ていたし。

登場人物としては季布が好きだが、彼のいかにも下々の者的な喋り口調はあまり好きではない。女性陣では虞美人草でも有名な虞姫よりも薄姫のほうが惹かれるところがあった。正直、気にくわないなと思うのは、味方では項伯であり宋義あたりだろうか。敵側では張良があまり好きではない。

 

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