もともこもない

記入日:2004/02/14

ずっと気になっている言葉がある。それが「もともこもない」だ。一般的によく見る「もともこもない」は「元も子もない」であり、「本も子もない」ではない。パソコンの漢字変換でも出てくるのは「元も子もない」の方だけである。少なくとも、現在私が使用しているATOKでは。

しかし、辞書には「本も子もない」とある。意味は「(元金も利息もないの意から) 失敗してすべてを失う。何もかもすっかり失う。元も子も失う」と、普段使っている「もともこもない」である。ちなみにCD-ROMの辞書「広辞苑 第四版」、手持ちの辞書「新選国語辞典 第七版」の両方でそうだった。

数年前、私は辞書の結果を受けて仕事上(製品内の文字)で書いた「もともこもない」を「本も子もない」にした。それに対し、ある人が「元も子もない」を主張した。私は広辞苑に「本も子もない」と載っていることを当時の上司に言ったが、その時彼が言った言葉は「広辞苑が間違っているんじゃないの」だった。

私はこの言葉が嫌いだ。軽々しく辞書が間違っていると指摘する感覚が私には解せなかった。何故、「元も子もない」を主張した側の何かの付録のような辞書こそ疑わないのかという想いもあることにはあったが、「元も子もない」を様々な場所で見かけることもあって「元も子もない」に変更することにさして抵抗はなかった。

私にとって問題なのは、彼が辞書を雑誌か何かと同じレベルで誤字脱字があるものとして扱っていることだった。彼は元々、言葉、特に漢字の対して無頓着なところがあった。例を挙げれば、「あたたかい」は「暖かい」「温かい」どちらでもよかった。そういうことを気にしない人だった。

あくまで製品を作る側として、いや一人の日本の社会人として、そういうところもきちんと見るべきではないのか、そういう私の苛立ちとともにあのときの言葉は私の心に刻まれている。また、あまり本を読まずに育ったことで、言葉に対して自信が持てない、いわば正しい日本語コンプレックスを抱く私にとって、勉強しようというきっかけになった言葉である。

 

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