対等化の法則

記入日:2004/06/21

職場での昼休み、女っ気のない人が珍しく同年代の女性と食事をしていた。私には意外すぎて妙におかしかった。何故そんなに意外すぎるのかと言えば、彼がある意味においてアクの強いキャラだからだ。どんな風な人かと言えば、彼女ができて一緒にベッドに入ったとしても、そこで政治談義をするような硬派すぎる人なのだ。

あの年齢であそこまで政治に詳しいのは賞賛すべきことだと思うが、TPOをわきまえずに政治の話を持ちかけるのはどうだろうという人である。そんな人が女性と二人で食事をしていたので、ちょっとニヤッとしてしまったと言ったら、私の気持ちが少しは理解してもらえるだろうか。

彼は今の職場に配属されたとき、いきなり「靖国ってどう思います?」と言い出し、その翌日辺りから何日か連続で二時間近く遅刻してきたある意味猛者である。政治に限らず、あらゆる分野に詳しく、そのことに誇りを持っているせいか、プライドが異様なまでに高いと古くから付き合っている人からは聞かされている。

そんな彼との出会いというか、最初の頃の会話で、私は彼の言うことに対し、重箱の隅をつつくような突っ込みをしてしまった。私の突っ込みは正論ではあったが、言った後でいやらしい言い方だと思えるものだった。その突っ込みが彼のプライドを傷つけたのか、仕返しを虎視眈々と狙うかのように、私の発言に対して突っ込みどころを探していた。

低く見られた方がいい

その日、私は風邪を引いていたので適当にべらべら、それも大雑把な言い方で話していた。確かイラクの話をしていて、彼が今の職場に配属されたときにイラク戦争に向かい始めていたと聞いたので(また、彼がもう一年くらいで辞めると言っていたので)、つい軽く「(戦争開始とともに入ったので)終わりまで見届けるのかもね」と言ってしまった。

すると彼は「何をもってして終わりにするのか」という話をしてきた。まぁ、そんなことは言われなくてもわかるのだが、わざわざ反論することでもないので黙って聞いていた。私が意図したところの「終わり」とは、嫌な言い方だが「ニュースとしての旬(新聞の一面を飾るような)」の「終わり」である。

一度突っ込んで波に乗った彼は、「イラクが一年で落ち着くとは思えない」と言っていろいろ語り始めた。別に私も一年で落ち着くとは思っていないが、口を挟む気力もなかったので黙って聞いていた。いつもの私なら、実際の能力以上に自分が低く見られることを嫌い、あれこれ言うのだろうが、今回は逆に低く見られた方がいいと思って何も言わなかった。

低く見られた方がいいと思ったのには理由がある。「私=政治に疎い」と彼に思われた方が、「彼が私に話しかけてこない」と判断したのだ。正直、鬱陶しくて話していられないので、そのほうが得策だと考えた。彼の話は正論であり勉強になると思うが、昼休みの会話としては間違っていると個人的には思っている。また、彼の意見には著しい偏りがあり、他者の意見を認めようとしないところがあるので、話していて疲れるのは間違いない。

誰しもが感じている法則

と、彼の話はこのくらいにして、彼のことを考えるうちに気づいた法則のようなものについて書く。人にはプライドを対等化させようとする心理(適切な言い方が見つからないのでこう書いたが)があるのではないだろうか。具体的な事例で言えば、先に書いた彼の事例のように突っ込みを入れられたら突っ込み返さないと気が済まないようなものだ(2004/05/25 無意識の報復 とだぶるが)。

そこにあるのはやられたからやり返せという心理の他に、相手との対等な関係を維持するための防衛本能な気がする。「突っ込まれた=弱点を突かれた=突っ込んだ側の方が立場は上=だから、突っ込み返して互いのレベルの差をなくす」そういった図式が見える。

逆に考えれば、いい関係を築こうと思ったら、突っ込みを入れられて相手を凹ませてしまったら、突っ込みどころを作ってあげて突っ込ませてあげることが大事かも知れない。しかし、それにより、こんなに容易に突っ込みができるヤツに突っ込まれるなんてと、プライドが高い人は思うかも知れない。ちょうど、宿命のライバルだと思っていたヤツがくだらないミスをして、「おまえをライバルだと思った俺がバカだったよ」と言うようなものだ(漫画チックだが)。まぁ、言われるまでもなく、日常で誰しもが感じている法則(大げさな言い方だが)である。

 

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