もう一つの不適切な関係

記入日:2006/7/14

学習心理学というやつがある。これを知らない人に説明するときは、パブロフの犬の話をすれば手っ取り早いかもしれない。あのベルを鳴らした後に餌をやっていたら、ベルを鳴らしただけで餌が来ると思ってヨダレを流したというアレである。この場合、犬はベルが鳴ったら餌が来ると学習したわけだ。

さて、先のは古典的条件づけと呼ばれる学習であるが、道具的条件づけというものもある。これを説明する際によく使われるのがスキナー箱である。レバーを押したら餌が出てくる箱の中に入れられたマウスは、レバーを押すと餌が出ることを知ると繰り返すといった類のものである。パブロフの犬と違うのは、犬は受動的だったのに対して、マウスは能動的なことにある。レバーを押すと餌が貰えるという学習を得て、自ら行動するようになったのだ。

ここにひとつのサンプル事例がある。

ある国にデブでチビで短足の事実上の独裁者がいました。彼は外交面や内政等々で問題を抱えていましたので、何とかしようと近隣国へミサイルをぶっ放してみました。少し脅してやれば、何かくれるだろうと思ったのです。

彼の思惑通り、近隣国からはお米が送られてきました。人道的支援というのだそうです。自国には飢えた人がたくさんいるのを強調するビデオを送った甲斐がありました。でも、そのお米をもらうのは飢えている人とは限りません。くれた側も、そんなことはどうでもいいのです。ようはアレを撃ってくれるなという話なのですから。

でも、彼の国にとっての問題は喧嘩の弱い近隣国ではなく、その後ろに控える「俺は世界の警察だ」と威張っている方々でした。もし、近隣国にミサイルが落ちてしまって本格的な戦闘にでもなったら、あの国が出て来てデブでチビで短足の彼の政権は終わってしまいます。彼はそれを一番恐れているのです。

幸い、そのときの彼の国のトップは事なかれの道を選びました。相手を追いつめて、最悪の事態を招きたくないというのが理由でした。事情はどうあれ、デブでチビで短足な彼にとっては万事がうまくいったのです。ここで彼は学習します。ミサイルを撃てば万事うまくいく、と。

一度、学習したものは繰り返されます。そう、困ったときにはミサイル頼み。近隣国にとっては困ったことです。では、どうしたらいいのでしょうか。答えは簡単ですね。学習の消去を行えばいいのです。

ミサイル発射と利益がイコールではなく、ミサイル発射と不利益をイコールで結ぶようにすれば、先にされた学習は消去されます。そうすれば、簡単にはミサイルを発射しなくなるかもしれません。もっとも、学習心理学では消去された学習の自発的回復というお話もありますがね。

この学習をチビデブ短足にさせてしまった彼の国の当時のリーダーは、とある女性と不適切な関係を築いたことで有名になってしまいましたが、もっと不適切な関係を築いた相手がいたことに、彼は気付いていないようです。まったく、女のケツばかり追っかけやがって……ってね。

社会的スキル訓練

最後にいつもの書き方で真面目な話。学習心理学の講義の中ではSST(社会的スキル訓練)の論文を読む機会がある。こういったものを読んだ場合、論文である以上、実験的な匂いがするのは否めない。だが、例えば不登校児のSSTだった場合、実際にその問題で悩んできた親にすれば、どこか絵空事的なものを感じずにはいられないのではないだろうか。

実際、初老のオバサンが身内に不登校児がいたことを引き合いにして、論文のように物事は簡単にいかなかったといった具合の話をした。講師はこういったケースでは効果があったという限定された話であることを補足したが、たぶん彼女にはそんなことはわかっていただろう。彼女としては、実際にその問題で苦しんだ人間としては何か言わずにはいられない、といった面持ちだった。

人は同じ単語を使用し、耳にしても、そこに連想する事物は異なる場合が多々ある。講師にとっては不登校児という単語は不登校児でしかく、彼女にとってのそれは身近にいた身内の不登校児という存在のフィルター越しに感じられる負の記憶なのだ。

 

ランダム・ピックアップ