不愉快な存在

記入日：2006/11/4

昼休みに、近くにあるスーパーに行った。そこにはテーブルやベンチなどが置かれた休憩所があり、食後はよくここでお茶などを飲んでいる。今日も、いつものように休みに行くと、先客として幼稚園くらいの女の子とその母親達、隅の方でカートに積んだ荷物に顔を埋めて眠っている男がいた。

ベンチに座ってお茶を飲んでいると、男がボソボソと喋っているのが聞こえてきた。どうやら、子どもの声が耳障りらしく、ボソボソと独り言で文句を繰り返していた。まぁ確かに、うるさいと言えばうるさかったし、口にチョコレートを付けたまま走り回る子どもを、しばらくほったらかしにしていたのはどうかと思う。

だが、彼のボソボソ言っては眠り、起きてはボソボソ言うという繰り返しの方が、私にとっては子ども以上に不愉快な存在だった。子どもはうるさいものだから仕方がない、という見方があることもあるだろう。

この時は、まだ独り言の多い人くらいの認識だったが、彼は突如として「万引きは犯罪です。カメラに写っています」と叫んだ。少なくとも、周囲に万引きをしているような人はいなかったので、まったく意味不明の叫びに聞こえた。

そんな怪しい言動が気にかかり、チラッとその男の方を見てみた。店のカートには買い物カゴが載せられていたが、中に入っていたものは店内で購入したものではなさそうだった。その視線に気が付いたのか、男は私に向かって「人の物をじろじろ見るな」と言ってきた。関わりたくないので無視していたら、「中国に帰れ、中国人。ここはお前等が来るところじゃない」と怒り始めた。

私は生粋の日本人だが、無視し続けたことで日本語がわからないと思われたのか、いきなりの中国人呼ばわりの上に差別発言の連発が始まった。瞬時にして、こいつは尋常な人間ではないから相手にしないに限るなと思った。しかし、理不尽な理由で罵倒されっぱなしというのも癪に障る。だからといって、一発ぶん殴ってしまっては暴行罪。口論しても馬鹿馬鹿しいだけなので、その場を後にした。

今思うと、彼は精神的に病んでいるところがあるような気がしないでもない。「万引きは犯罪です」という言葉は、彼自身が前に言われた言葉で、何らかのはずみで思い出して口にしたのではないか。自分の持ち物が見られただけで過剰な反応を示し、自分の精神を守るように過度な攻撃を仕掛けてきたのも、正常ならざる認知の成せる業ではないかと思えてきた。

それはいいとして、嫌な気持ちのまま仕事に戻ることになり、気持ちの切り替えに努力を要した。彼に関して、様々な見地から倫理的に、かつ博愛精神で捉えて優等生的コメントを言うことも出来るが、本音を言えば「死ねばいいのに」である。文章を書いてスッキリするとしたら、やはり「あんなゴミ、さっさと片付けて欲しい」といった言葉を書きたくなる。そういう人間だった。無論、本気でそうしたいわけではないが。

仕事で使っているパソコンは古く、性能も悪いために度々その動作に苛つくことがある。具体的に言えば、特定のソフトを起動した際の重い処理や、社内ＬＡＮを利用して他のパソコンの共有フォルダにアクセスした際に、一時的に固まるといった点が挙げられる。

なるべくおおらかな気持ちで焦らずに作業するようにしているが、急いでいる時などは腹が立って仕様がない。早く買い換えてくれと思わないでもないが、買い換えた後のデータの移動作業を考えると面倒だなと思ってしまう。まぁ、私には買い換えの決定権がないので、色々考えても仕方のない話ではあるのだが。

そんな厄介なパソコンなのだが、今日は特に機嫌が悪かった。昨日、最後に使用した人がきちんと終了しなかったせいか、電源を入れるとハードディスクのエラーチェックがかかった。おまけに、チェックが終了したら起動するかと思いきや、黒い画面で固まったままになった。

なので、一度落としてから再度起動すると、セーフモードでの起動となり、再起動を余儀なくされた。それでいつも通りできるかと思っていたら、フォルダを開くのに三十秒以上かかるような状態だった。この後、もう一度再起動をして通常の処理能力に戻った。本当にもう朝からこれだとため息が出てしまう。

昼休み、いつも昼食を取る店がある通りに向かった。そこでふと、土曜日の嫌な男のことを思い出し、彼がいたスーパーに近づくにつれて遭遇することを懸念した。もし、逢ったらどうするのかということを少し考えた。不意に喉に詰まりのようなものを感じた。

数年前、初めての会社に入ったばかりの頃に味わった感覚と同じだった。簡単に言えばプレッシャーがかかるとなる症状なのかもしれない。とにかく、嫌なことが脳裏をかすめたままでの昼休みとなった。

あんな奴のために気疲れするのも馬鹿馬鹿しい限りだが、多くの場合においてそんな馬鹿馬鹿しさを提供する存在は何処にでも居る。そして、ダメな奴ほど人に迷惑をかけて、周囲全体をダメにしてしまう。

なのに、権利だけは主張する。生きていても仕方のない人間はいるものだと、建前を取っ払えば思う。本当にやれやれな感じだ。