理由無き憂鬱感

記入日:2006/11/8

いつものように一日を過ごしていたと思っていたのだが、いつの間にやら憂鬱な気持ちになっていた。仕事が終わっていったん家に戻り、そこで準備をしてから大学に行こうと思っていたのだが、明日の夜までに仕上げなくてはいけない課題のことを思い出してやめた。授業に出て戻ってからでは間に合わないと思ったからだ。

課題とは昨日の講義の中で引き受けてしまったチーム課題のレジュメ制作である。引き受けたことに蟠りはないが、自分だけ負担が大きくなったことへの不満がないといったら嘘になる。引き受けなければ、いつものように講義に出ていたのだから当然と言えば当然だ。とはいえ、憂鬱になるほどの不快さはない。だとしたら、この理由のない不快さはなんだろうか。ただの疲れだろうか。いや、別の要素もあった気がする。

何となくではあるが、前に応募してダメになった小説のことが心に引っかかっていた。あれが全く受け入れられなかったことと、その作品を諦め切れていないところがあるために、認められない自分の不甲斐なさと今後への不安が知らぬ間に増幅されていたのかもしれない。

大学卒業後に待ち構えているであろう様々な困難に対し、私は前向きになれずに生きている。その困難の先にあるものに興味がないことも大きいが、心の何処かで苦労をしたところでせいぜいこの程度という見切りが付いている分、余計に頑張ろうという気持ちになれないでいる。

つぶしのきかない仕事を長くやってきたために、これから一般的な仕事に就こうとした場合、新卒の人と同じくらいのところから始めなくてはいけないという厳しさ、砕かれるであろうプライドが私を億劫にしている。自分が年齢を重ねてきただけの、年齢に見合うだけの経験のない人間に思えて仕方がない時がある。

自分より下を見れば下らしき存在はいるだろうが、それを見つけたからといって喜ぶ理由は何もない。そういった自分より弱い立場を見ては笑い、強い立場や優遇されている者を見てはひがむ、そんなつまらない自尊心を満たす人間にはなりたくない。

週刊誌のゴシップ記事を見て、高い地位にあった者が落ちては溜飲を下げ、人が何か失敗すれば徹底的に叩いてバカだと罵って憂さを晴らす、そういった中身のない人間にならないことだけが、今となっては唯一残された誇りとも言える。

ネガティブな感情だけを抜き出すと、自分がえらく暗い人間に思えてくる。だが、今はそれほど憂鬱な感じは残っていない。些細なことではあるが、日米野球で9回オモテに日本が2アウトから同点に追いついた時、何事も終わってみるまでわからないなと、当たり前だが忘れがちなことを少し思い出したら空元気が出て来た。

何となく気分転換で付けたテレビの小さな出来事で、こうも気持ちが変わるのだから私という人間も思いのほか単純にできているのかもしれない。まぁ、最終的には延長戦の末に日本は負けることになるのだが……。それでも、ただ負けるのよりは遙かに良かった。

代返

グループに分かれてディスカッションをする社会学系の講義で、同じグループになったとはいえ、そんなに親しくない人から代返を頼まれた。出席カードに名前だけ書いて、「出しておいてください」と渡されたのだ。条件反射的に受けてしまったのだが、カードを渡すとすぐに帰っていた彼女らに対し、多少なりとも不快な感情が湧き起こってきたような気がする。

ボロボロの発表

レジュメを作ったから発表者は免れるであろうと思っていたが、結局すべてを私がやる羽目になってしまった。授業開始後十数分、最初に発表するグループとして うちのグループが選ばれ、誰が発表するかも決まらないまま、メンバー全員が前に出ることになった。そこで、場の雰囲気的に私がすべてを喋ることになってしまった。なんてこったい、である。

それなりの出だしで話し始めたものの、途中で何度か訳のわからないことを口走ったり、言葉に窮して「え~」を連発したり、うまく解説出来なかったりして散々だった。メンバーは社交辞令的に「よくやった」とは言うが、そこには何もしないで済んだ者の安堵感しかなかった。

発表後、ほかの発表者を見ていると、自分の不出来さに頭が痛くなる。誰もが堂々としていて立派に見える。まったく緊張していないように思える。ホント、大舞台で何かできる人は凄いというか、「いいよな」と小心者は思ってしまう。周りは私も緊張していないように見えたらしいが……(脚が震えたこともあったのに)。

ここまで書いてふと、職場での出来事を思い出した。何もしないで済んだ者の安堵感、それは職場での普段の私に他ならない。リスクのない単調な仕事のみをこなし、冷静な目で周囲を見つめ続けている。そんな私が客観的な意見を言って何らかの益を得たとしても、それは気楽な立場が成せる業でしかない。ても仕方のない人間はいるものだと、建前を取っ払えば思う。本当にやれやれな感じだ。

話を授業に戻す。その発表の際に、誰が発表するのかという雰囲気になった時、一人の男が「オレ、このレジュメを見たのも初めてだし」と言った。もともと、このレジュメは事前にワードファイルの形式でメンバーに送信していたものだ。このファイルを開いて中身を確認し、意見を言って最終版を仕上げる予定だったからだ。

それを見ていないというのだから怠慢でしかない。しかも、「見ていない」ことを発表を逃れる理由としているのだ。本末転倒も甚だしい。もし、発表しないためにわざと見なかったのだとすれば、これ以上不愉快な話はない。そこまでして人前に出たくないのか、チキン野郎と言いたくもなってくる。

まぁいい、奴がそこまでして守れたものは何もないだろう。人前で醜態をさらさずに済んだ? いや、私の前でみっともない姿を見せた時点で、既に一番守るべきプライドは捨て去っているのだ。それに比べたら、例えうまく喋れなかったとしても、前に出て行った分、私には得るものがあったような気がする。ようは場数だ、じきに慣れるだろう。

 

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